富山県五箇山に魅せられて。
写真家・奈雲誠さんが見つめる暮らしと文化

富山県五箇山に魅せられて。写真家・奈雲誠さんが見つめる暮らしと文化

富山県南砺市の五箇山。1995年に白川郷とともに「白川郷・五箇山の合掌造り集落」として世界文化遺産に登録されたこの地域は、急勾配の茅葺き屋根を持つ合掌造りの家屋群と、厳しい自然環境に適応した伝統的な生活様式を今に伝える貴重な場所です。

そんな五箇山に魅せられ、17年もの間通い続けている写真家がいます。東京生まれ育ちの奈雲誠さんです。合掌造りの風景だけでなく、そこに暮らす人々の日常を丹念に撮り続ける奈雲さん。世界遺産としての価値を持つ五箇山の魅力、撮影への思い、そして地域の人々との深い絆について伺いました。

黒﨑宇伸(くろさきたかのぶ)

奈雲誠(なぐもまこと)

写真家。富山が誇る世界文化遺産・五箇山合掌集落を中心に地域全体を2007年から17年間ライフワークとして撮影し続けている。1969年東京都豊島区出身。現在も月1〜2回のペースで東京と五箇山を往復し撮影しており、今年3月には通算200回に達した。撮影作品は2013年を皮切りに過去3回、地元五箇山の道の駅たいら五箇山和紙の里ギャラリーにて個展で発表し、今回は4回目を迎える。また2017年には写真集「五箇山彩時季」を出版。日本写真家協会主催のJPS展や全国総合文化展などに入選。JRなどの広告・冊子にも広く採用されている。公益財団法人日本写真協会正会員、ニコンプロフェッショナルサービス会員。

白川郷から五箇山へ。偶然の出会いが人生を変える

五箇山に通い始めたきっかけを教えてください。

2007年に世界遺産の白川郷を訪れたのが始まりです。その後、五箇山にも足を延ばすようになりました。最初は白川郷がメインでしたが、徐々に五箇山の魅力に引き込まれていきました。

五箇山を初めて訪れたときは、そのコンパクトさに驚きました。白川郷は東から西まで歩くのに30分から1時間かかりますが、五箇山は20分もあれば十分に歩けてしまうほどです。その小さな集落の中に、たくさんの魅力が詰まっていたんです。

月に1回ペースで通い、2024年3月には通算200回を超えたと伺いました。約17年も通い続ける理由は何でしょうか?

人とのつながりができたことが大きいですね。自然だけを撮り続けていたら、もっと早く終わっていたかもしれません。最初は観光協会の方と知り合いになり、そこから少しずつ地元の方々との関係が深まっていきました。

例えば、五箇山和紙を使って写真をプリントしたいと思い、和紙工房のスタッフの方に連絡したことがきっかけで、写真展を開催するまでになりました。また、祭りに参加させてもらったり、農作業を手伝わせてもらったりするようになり、単なる観光客ではない関係が築けたんです。写真だけ撮っていたらきっとつまらなかったんじゃないかな。五箇山の暮らしに溶け込んで、「何か手伝うことがあったらいつでも言ってよ」と、まるで家族や親戚のようなお付き合いをさせていただいています。

元々写真が好きだったのですか?写真を始めたきっかけを教えてください。

そうですね。カメラ自体は小学校の頃から触っていましたが、本格的に始めたのは15歳の時です。中学3年生の時に親から一眼レフカメラをもらったのがきっかけでした。それ以来、写真を撮ることが当たり前の日常になっていきました。

最初は鉄道写真や風景写真を中心に撮っていました。大学生の頃は毎年のように北海道へ行って撮影していましたね。でも、やはり自然の風景や建物よりも、人の暮らしぶりを撮ることに興味が移っていきました。それが今の五箇山での撮影活動につながっているんだと思います。

現在、五箇山にて<奈雲誠写真展 和紙に綴る五箇山 Vol.3 Series1 「五箇山彩時季」 ~穏やかな日々の暮らしに感謝して~>を開催中の奈雲さん。2016年から2020年春までのコロナ禍前の作品を展示されています。〜2024年9月8日(日)迄。
加えて2025年夏 続編として2020年夏以降の作品に入れ替えて<奈雲誠写真展 和紙に綴る五箇山 Vol.3 Series2>として開催予定です。

 

四季の移ろいと人々の営み。五箇山の魅力とは

五箇山の魅力はどんなところにありますか?

四季の移り変わりがはっきりしていることですね。冬は2、3メートルの雪が積もり、春になると雪解けとともに生命力がみなぎってくる。そんな自然の循環を肌で感じられます。

例えば、秋になると山の斜面に自生するカヤを刈り取る作業があります。これは合掌造りの屋根の材料になるもので、毎年20日ほどの期間で一斉に作業が行われます。鎌ひとつ持って山に入り、手作業で2メートルくらいの束を6000束ほど刈ります。それを山の斜面で干して、乾かして、そののち山からおろして保管して……と、とても大変な作業ですが暮らしを守り、世界遺産を未来に繋げていくためにも欠かせない作業です。私も毎年のように参加させてもらっていますが、こういった伝統的な作業が今も続いているのは素晴らしいことだと思います。

また、地元の方々の温かさも魅力です。最初は写真を撮られることに少し抵抗があったようですが、今では自然な姿を撮らせてくれるようになりました。

時には「あなたが奈雲さんですか?」と声をかけられることもあり、少しずつ地域に受け入れてもらえているのを感じます。

撮影で心掛けていることはありますか?

無理をしないことです。例えば、撮りたいと思った時季の写真が上手く撮れなくても、来年まで待つ。そして、地元の方々の生活を尊重し、畑や田んぼに勝手に入らないよう気をつけています。

また、カメラを向けても気兼ねなく自然な姿でいてくれるようになったのは、長年の信頼関係があってこそだと思います。その信頼を裏切らないよう、常に気をつけています。

東京育ちの写真家が見つめる、五箇山の日常

東京生まれ育ちの奈雲さんですが、五箇山の魅力をどのように捉えているのでしょうか?

東京にいると、自然を求めて1時間以上移動しなければならない。でも五箇山では、豊かな自然に囲まれた生活が当たり前にあります。その違いは衝撃的でした。

特に印象的だったのは、コロナ禍で長期間五箇山に行けなかった後に訪れたときのことです。久しぶりに吸う五箇山の空気の美味しさは今でも忘れられません。東京のコンクリートジャングルとは全く違う、心が浄化されるような感覚がありました。

また、五箇山の方々の生活リズムにも魅力を感じます。例えば、春祭りや田植え、稲刈り、紅葉時季の冬支度、そして冬の雪の中での暮らしと、季節ごとの行事や自然の変化に合わせて生活が営まれています。その循環を撮影し続けることで、都会では味わえない時間の流れを感じられるんです。

地元の人たちとの交流について、印象に残っているエピソードはありますか?

毎年参加させてもらっているカヤ刈りの作業が特に印象に残っています。コロナ禍でも、地元の方から「今年も参加しますか?」と声をかけていただいて。そんな風に受け入れてもらえているのがとてもうれしいですね。

また、これまでに写真展を何度か開催しているのですが、毎回印象深いです。

例えば今回、地元のおばあちゃんたちが3人で来てくれて、写真を見ながら「これは誰々の家の子だ」「あの時はこんなことがあったね」と、写真を通して昔話に花を咲かせてくれている姿を見たことがありました。そういう瞬間に、自分の撮影が地域の記録にもなっているんだと実感しました。

五箇山の暮らしが分かる形で展示していて、このため合掌集落の四季の風光明媚な風景写真を1点も出さない表現で展示しています。なので風景お目当ての方には少し物寂しい展示作品ですが、代わりに日常の五箇山の暮らしぶりを見て感じられる機会ですので、ぜひともその視点でお楽しみいただけたらと思います。

 

これからの五箇山と写真家としての展望

今後の活動について、どのようなビジョンをお持ちですか?

これからも五箇山と関わり続けたいです。地元の方々からの要望があればいつでも伺えるような関係を保ちつつ、いずれは移住することも考えています。

撮影については、合掌造りの風景だけでなく、そこに暮らす人々の日常をもっと深く撮っていきたいですね。実際に、今回の写真展では「暮らし」をテーマにした写真をメインに展示しています。地元の方々に見てもらって、昔話に花を咲かせてもらえるような、そんな写真を撮り続けていきたいと思います。

また、五箇山の魅力を外部に発信することも大切だと考えています。去年、地元の高校で講演する機会がありましたが、外部の目から見た五箇山の良さを伝えることで、地元の若い人たちにも改めて五箇山の魅力を感じてもらえたらいいなと思います。

最後に、五箇山を訪れる人たちへメッセージをお願いします。

五箇山は、合掌造りの風景だけでなく、そこに暮らす人々の温かさや、四季折々の自然の美しさなど、多くの魅力にあふれています。ぜひ一度訪れて、ゆっくりと時間をかけて五箇山の空気を感じてほしいですね。

そして、できれば一度だけでなく、季節を変えて何度も訪れてみてください。その度に新しい発見があり、五箇山の魅力をより深く感じられると思います。私自身、17年通い続けていますが、まだまだ新しい魅力を発見し続けています。皆さんも、五箇山との素敵な出会いを見つけてください。

▼奈雲 誠さんについてはこちら!

http://blog.livedoor.jp/nagu0223/

http://facebook.com/makoto.nagumo1

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