”余計を、余裕に”をミッションに掲げ、AIを使ったコンサルティング事業を展開するコストサイエンス株式会社。データ活用だけでなく、現場ヒアリングによるコスト削減と事業開発支援で、企業価値の最大化を支援しています。
代表の小倉さんが掲げる“人を切らないコスト削減”の根底には一体どんな思いがあるのでしょう?地元である富山県南砺市の活性化のために立ち上げた「ジソウラボ」についてもお聞きしました。
小倉 朗(おぐら あきら)
富山県南砺市井波出身。早稲田大学卒業後、東京大学大学院で修士課程修了(生命科学)。コストサイエンス株式会社 代表取締役CEO。一般社団法人ジソウラボ 共同創業者兼監事。
人を切らずに、企業価値を最大化
小倉さんが代表を務めるコストサイエンスとはどのような会社なのでしょうか?
小倉朗さん(以下、小倉):業界を問わず、データサイエンスをベースにした人を切らないコスト削減施策を立案し、実行、そして生まれた余裕で事業開発支援までを伴走しています。データの活用にはAIやシステムを開発し、業務へ導入していきます。
自社の貴重なデータを活用しきれずに余計なコストが発生している企業は少なくありません。弊社は財務や原料単価、仕様といったさまざまなデータの収集・整理をし、データを有効的に活用するデータ活用基盤構築のサポートもしています。
社内にはデータサイエンティストとビジネスエンジニアの2つの組織があり、データを根拠とした意思決定とデータのビジネスへの活用によるコスト削減と新規事業開発を支援しています。
なぜ人を切らないことを前提としているのですか?
小倉:日本が元気になるためには新しい事業をつくるか、将来伸びていくであろう事業に時間とお金を使うしかないと思います。そのときに必ず人が必要になると僕たちは考えています。
会社のミッション・使命として“余計を余裕に”という言葉を掲げていますが、その根本には、余計なものを減らしてできた余裕を新しいものや、本当にやるべき事業に使う必要があるという考えがあります。そこで必要になるのは人です。
余計を減らしたときに人まで減らしてしまったら、その先のエンジンがなくなってしまいます。一時的な利益を求めるために長期的な利益を捨てることはしてはいけないと思っています。リストラをするためにコンサル会社に悪者になってもらうというのはこの業界でよくあることですが、僕たちはそういった案件は受けていません。
相手の立場になって、データに基づいて話をする
コストというといろいろなものがありそうですが、何が一番多いのですか?
小倉:どのようなコストが多いかというのは業界や世の中の状況にも左右されます。コロナ以降では特に時間の使い方の効率化が課題となる会社が多いです。従来の対面での商談が減り、web会議などの新たな手法での商談が当たり前になってきました。また、商品開発や翌日の仕入れ予測に関しては、従来のやり方が通用しなくなってきています。そこで、AIを開発して自動化、省人化、最適化することで時間の余裕をつくる、ということをやっています。
顧客にとって最適な提案をするためにはどんなことが重要なのでしょうか?
小倉:主観的な意見に惑わされずに話をするのが大事です。僕たちは数字のデータを見た上で客観的に顧客の話を理解します。たとえば「以前からずっと買っている」という理由で仕入れをしている担当者がいても、それは理由ではないので、「買う理由」を答えられないとすればそれは必要ないものです。
きちんと数字に落とし込んで話をして、社内の人だけでは気づかないことに気づかせてあげるのも僕らの仕事だと思っています。それができるのもデータに基づいて分析、施策立案、実行をしているからです。
コスト削減はサイエンスの世界ですが、コンサルティング業務の6割くらいは顧客との対話です。相手の立場になって物事を考えるには、まずその業界で使われる用語を自分たちの中でも自然に使えるようになる必要もあります。
コストサイエンスの仕事のおもしろさはどんなところでしょうか?
小倉:広くものを見れることですね。お客さんが変われば業界業種が変わるので、その度に勉強が必要です。いろいろな業界のことを、その中にいるよりも俯瞰的に捉えて知ることができるので、視野が広がっていくのがおもしろいですね。2019年には不動産サービスやクリーンエネルギー事業を展開する、東証一部上場企業のいちご株式会社さんと業務提携したこともあり、業務の幅も広がっています。
富山県南砺市で起業家を支援する「ジソウラボ」
小倉さんが監事をされているジソウラボとはどういった団体なのでしょう?
小倉:僕の地元である富山県南砺市井波地区で文化の継承や活性化を目的としてまちづくりを行う一般社団法人です。
僕は18歳で地元を離れましたが、その当時町の人口は1万人でした。22年が経った今、8000人にまで減っています。「民間の力で盛り上げていかなくてはダメだ」と島田木材4代目社長の島田優平さんと話し、共同創業者として立ち上げたのがジソウラボです。
ジソウラボがうたっているコンセプトは“メイク・ザ・メーカー”。つまり作る人をつくることです。現在では、ビジョンに共感した30〜40代の経営者と起業家の7名が運営メンバーとして集まり、南砺市を人が育つ地域にするべく、起業をする人を県外から募集し支援するプロジェクト”BE THE MASTER PIECE”も行っています。
この一年間で6人の起業家が生まれ、移住をした人もいます。町にも若い人が集うような新しいスポットがいくつか生まれ、盛り上がってきています。
すでに実績が生まれているのですね!どんな人や場所が誕生したのですか?
小倉:パン職人やバリスタ、糸鋸師、移動困難者の方へ向けたモビリティ事業や、クラフトビール屋の開業、起業や副業をする人へ向けた空き家の促進事業などさまざまな支援をしました。
仕事がなくては地域に入り込んでいくのは難しいので、単なる移住促進ではなく、仕事を作り仕事をしながら住む人を応援するということを軸としています。
富山県の事業として受けた町づくりのプロジェクトも今動き始めています。食をテーマとしたプロジェクトで、そこにデータサイエンスを絡めて、人の流れを分析し井波地区の関係人口が増える仕組みを作っていくというものです。
データサイエンスが地域の活性化にも役立っているのですね。
ふるさと井波は、ありのままで居られる場所
富山県の南砺市井波とはどんなところなのですか?
小倉:南砺市は祭りや芸能、工芸といった伝統文化を特に大切にしている場所で、井波地区独特の「木彫り音頭」は少し練習すれば今でも踊れると思います(笑)。小学校の運動会では毎回必ず踊っていましたからね。
南砺市の平高校には郷土芸能部という部活があるところもあります。それくらい伝統芸能が身近にあって、先輩の姿がかっこよくて憧れを持つという人も少なくありません。
伝統文化が若い人の間でも受け継がれているのはすごいですね。
小倉:南砺市というと、世界遺産に登録されている五箇山の合掌造り集落が有名ですが、それだけでなく、井波地区は日本一の木彫りの町として知られています。
井波彫刻は14世紀に建立された瑞泉寺という寺から発祥しました。京都の東本願寺から招かれた彫刻師が再建に携わり、地元の宮大工にその技を伝えました。その後も次第に入門する職人の数が増え、現在では約200人の職人が、先人の技を次代に受け継いでいます。
小倉さんは地元に対してどんな思いを持っていらっしゃるのですか?
小倉:僕も地元が大好きですが、考えれば考えるほど、何も特別に期待していないなって思うんです。僕にとって南砺市井波は仕事の立場や肩書も関係なく、ありのままの”小倉朗”で居られる場所です。地元では、学歴も職業もばらばらの友人、知人たちで集まって、他愛もない話をしたりお酒を飲んだりします。
伝統文化やあたたかい人のつながりがずっと続いて、これからも安心して帰れる場所であってほしいなと思います。
取材を終えて
コストサイエンスでの本業の傍ら、月に一度は南砺市へ帰りジソウラボの活動を行う小倉さん。そのどちらもご自身や周りのメンバー全員が楽しみながら行っていることなのだと感じることができました。データサイエンスの力は企業の発展に役立ち、地域、そして日本全体の活性化への一端を担っているのだと実感した今回の取材でした。