氷見牛や氷見イワシ、ひみ寒ぶり…おいしいものがいっぱいの富山県氷見市。そんな氷見市で昭和42年に創業した三興土木株式会社は、土木・建築だけでなく、なんと飲食事業を展開し、今年2月に東京進出まで果たしたのだそう。その背景には地元氷見市へかける久保社長の熱い思いがありました。
久保俊介(くぼ しゅんすけ)
富山県氷見市出身。三興土木株式会社の3代目代表取締役。自然環境へ配慮した土木・建築事業を行う。2012年、ひみ番屋街に『麺屋いく蔵』を出店し、飲食事業を開始。2022年には東京・日本橋に飲食店をオープンした。
地球に優しい土木・建築の技術
三興土木はどういった会社なのですか?
久保俊介さん(以下、久保):土木工事、建築工事、建築資材として使用する砂利の販売、住宅の断熱リフォーム事業などを行っています。
土木や建築の工事を行う際には自然環境への配慮を大事にしていて、自然素材を使った建築や、ハイブリッドの重機を取り入れてCO2の排出を減らすなどの取り組みをしています。
住宅の断熱事業でもできるだけ土に還る素材を使いたいという思いから、新聞紙を砕いて作った『セルロースファイバー』を活用しています。新聞紙は元々は木からできていますし、断熱性能に優れているだけでなく、湿気の調整もしてくれるんです。
また、弊社で行っている土木工事の方法として、アタック工法というのがあります。これは土壌を改良して透水性と保水性を向上させ、洪水の被害を軽減したり地表の温度上昇を抑制することができるというものです。雨が降ったあとでも水溜りになりにくいので学校のグラウンドに適していますが、最近では太陽光パネルの下地に採用するお客様がとても多いですね。
なぜ太陽光パネルの下地に適しているのでしょう?
久保:太陽光パネルの下地はアスファルトやコンクリートにすることが多いんです。そうすると草刈りなどの管理は楽になりますが、熱を持って高温になり発電効率は下がってしまいます。そこでアタック工法を導入すると、下地は土でも草は生えにくくなり効率良く発電を行うことができます。
土木や建築工事の場面で環境への配慮は今後とても重要になっていきそうですね。
先代より受け継がれる地域との絆
今年で創業55年という三興土木さんですが、創業のきっかけは何だったのでしょう?
久保:富山県の氷見市といえば定置網という漁業が有名で、私の祖父は戦後、定置網の重りとして必要だった砂利を、船で運搬する仕事をしていたんです。
道路が発達し船で運搬する時代が終わると、採取した砂利を生コンクリートやアスファルトの工場へ販売する事業を始めました。富山県には一級河川が多くあり、その影響で田んぼの下には砂利が多くあります。田んぼを耕すときそれがじゃまになるので、地主さんからいったん田んぼを預かって、底から砂利を取り除いて返すということを続けていました。
その後、大手の建設会社さんの下請けを始め、やがては元請けをするようになり、事業は拡大していきました。
創業当時から氷見市とともに歩んできた歴史を感じます。久保社長は会社の3代目ということですが、会社を継ぐことになったきっかけはありましたか?
久保:学生時代は会社を継ごうとは思っていませんでした。大学へ進学するときもただ漠然と経営や法律の勉強をしようと近畿大学の法学部へ進みました。
氷見市で盛んなハンドボールを中学からずっと続けていたこともあり、大学でもハンドボール部に入って寮での生活を送りました。寮といっても自分のことをすべて自分でやらなくてはいけないので、それまで育ててくれた両親への感謝が深まり、何か恩返しをしたいという気持ちになりました。そこで、自分が会社を継ぐと言えば父親はきっと喜ぶだろうと思い、まずは建築業界のことを学ぶために、東京の建設会社に入社しました。
現場に入って朝から晩まで働き、大変ではありましたが5年間で10年間分くらいの勉強をさせてもらったなと思います。その後は富山県へ戻り、塩谷建設株式会社の土木部で1年間、土木の管理の仕方を学びました。
会社を継いですぐは、業務のデジタル化を進めていくところからでしたので、なかなか苦労しました。それから20年くらいが経ちますが、これまでやってこれたのは社員のおかげだと思っています。僕は会社の理念として第一に社員の幸せを考えていて、社員が幸せであることでお客様に笑顔で接することができて、それで利益が出れば地元に貢献をしたい、そういう思いでこれまでやってきました。
久保社長は、地域への取り組みなども熱心にされているそうですね。
久保:地元である氷見市を盛り上げたいという思いがあり、27歳のときから(一社)氷見青年会議所に所属し、37歳のときには理事長を務め、地域活動を行っていました。
2012年の『ひみまつり』では、東京ディズニーリゾートスペシャルパレードが氷見市にやってきたと聞きました。
久保:あまりに突拍子もない企画なのでできるわけないと周囲から言われましたが、氷見市の若い人たちに夢を持ってもらいたい、そんな思いから時間をかけて実現させることができました。当日は市内外から10万人以上の方にお越しいただき、フィナーレを飾る花火大会では5,400発の花火が上がり、皆さんに喜んでいただくことができました。
若い人たちは氷見市には何もないと思っていますが、ここにしかない魅力はたくさんあります。もし外へ出て行ったとしても「自分の出身地はこんなところなんだよ!」と自慢してくれたり、また地元へ戻ろうと思ってくれたらうれしいですね。
飲食事業で地元氷見市をPR
飲食事業もされていると聞きましたが、どういったきっかけで始められたのでしょう?
久保:2012年に『ひみ番屋街』という道の駅ができ、青年会議所の先輩方から「何か店を出してみないか」と声をかけていただきました。若い世代に挑戦している背中を見せる良い機会かもしれないと思い、国民食であるラーメンで町おこしをしようと『麺屋いく蔵』をオープンしました。
麺屋いく蔵のラーメンが、ナポリタンスタジアム2021(カゴメ主催)でグランプリを獲得したそうですね。一体どんなラーメンなのですか?
久保:麺には氷見産のハトムギを、スープには氷見市で獲れた片口イワシの出汁を使い、氷見市で栽培された山ぶどうを使ったジュースと氷見市で唯一のワイナリーで作られたシードルを加え、2種類のケチャップを合わせてナポリタン風味に仕上げた『氷見イワシ香るナポらー麺®︎』です。
氷見産の食材がふんだんに使われているのですね!
久保:氷見の食材で成り立っているラーメンとも言えますね。グランプリをいただいたことが追い風となって、今年の2月には東京の日本橋に氷見の食材をふんだんに使用したラーメン店をオープンしました。より多くの人に食べていただいて氷見市のPRにもなればと思っています。
これから挑戦していきたいことなどあれば教えてください。
久保:氷見市を世界に広めていきたいですね。氷見市には、まだまだ広く知られていない魅力がたくさんあります。特に、氷見市発祥の越中式定置網漁法は、まき網や底引き網のように追いかけた魚を取り尽くすのではなく、集まってくる魚を待ち受けて網に入る魚の3割程度を捕獲する、サステナブルな漁法として注目されています。
ただ食べ物がおいしい場所ではなく自然環境保護の面からも魅力を感じてもらえる場所として、世界から人が訪れるような場所になってほしいです。注目が集まる場所になればおもしろい企業が増えて、人口減少を食い止めることができます。僕も地元が大好きなので、そんな思いを受け継いでくれる若い世代が増えるととてもうれしいです。
久保社長、ありがとうございました!
取材を終えて
氷見市のPRになれば、と久保さんが開発した『氷見イワシ香るナポらー麺®︎』。オリジナリティに溢れ、東京へ出店したお店も多数のメディアから取材を受けるなど注目を集めているのだそう。食べ物以外にも独特の魅力を持っている氷見市。富山県を訪れた際にはぜひ氷見市まで足を伸ばし、定置網漁の様子も見てみたいです。久保さんのお話からは一貫して、故郷の活性化への情熱と自然環境保護への思いを感じました。
▼三興土木についてはこちら!
http://www.sanko.e-arc.jp/index.html