開通50年。富山のシンボル「立山連峰」を貫ぬく、
アルペンルートの歴史と魅力

開通50年。富山のシンボル「立山連峰」を貫ぬく、アルペンルートの歴史と魅力

富山県内の各所から眺めることができる雄大な立山連峰。立山黒部アルペンルートは、富山県と長野県を結ぶ山岳観光ルートとして知られています。

運営会社の立山黒部貫光は1964年に創業。「立山連峰は富山県民のシンボルです」と話す7代目社長の見角要さんもまた、富山県で生まれ育ちました。今回は、アルペンルート開通の裏側や、創業時から貫いてきた思い、観光地としての魅力についてたっぷりお伺いしました。

見角要(みかどかなめ)

見角要(みかどかなめ)

立山黒部貫光株式会社代表取締役社長、立山黒部観光宣伝協議会会長。 1956年富山県生まれ。1978年に富山地方鉄道株式会社に入社。2017年に常務取締役、2019年代表取締役社長に就任する。

アルペンルートは、“立山連峰を貫く光”

アルペンルートってどんなところなのでしょうか?

見角:立山から長野県扇沢まで標高3000m級の山々が連なる北アルプスを貫いて、ケーブルカーやトロリーバス、ロープウェイなど様々な特徴のある6つの乗り物を乗り継いで移動する山岳観光ルートです。開通したのは昭和46年。今年で50周年を迎えます。

50年前、アルペンルートを開通したのにはどんな背景があったのでしょう?

見角:
立山黒部貫光は、「貫く光」と書きます。ふつうは「観光」ですよね。日本海側と太平洋側をトンネルで結び、光を通すという意味があって、創業者の佐伯宗義は「立山アルペンルートは人間形成の道場」と言っていました。立山黒部の大自然と古くから伝わる山岳信仰の歴史を尊重するという思いは今でも大事にしています。

佐伯宗義が生まれたときは、富山県内の鉄道は統一されておらず、富山市内に出るのにも1時間以上かかりましたから、生活をもっと便利にしたいという思いもあったと思います。

それから、黒部ダムに資材の輸送などをするために富山県と長野県を結ぶルートが必要でしたが、立山連峰が富山県の東と西を分断していて、障壁となっていました。そこで佐伯は、立山連峰に穴を開けて長野県側と結ぶということを考え、開発が始まったんですね。昭和27年には、富山県は立山の開発を進めていこうという方針ができて、佐伯の思いとも一致しました。

“立山連峰に穴を開ける”というのを、本当に実現したんですね。

見角:当時そんな計画を話しても、夢のような発想だと言われて相手にもされなかったようです。でも本人の熱意が周囲に伝わり、県の力も加わって、見事その計画を成し遂げたんです。

当時は技術も発達していないので、手探りの状態。ましてや標高は2500メートルです。そんな中、佐伯は「立山に穴を開けるのは自分しかいない」と思っていたそうです。一人の事業家が実現したのは本当にすごいことだと思います。

▲標高が高く、空気も澄んでいる室堂周辺では雲海が見られることも。

自然保護と安全を第一に運営を続ける

アルペンルートの魅力はどんなところですか?

見角:まずは立山の自然を体験できるということです。トロリーバスやロープウェイといった乗り物を乗り継いでいくのもひとつの観光地では珍しく、非常に楽しいルートです。

ここ最近では雪の大谷がもっとも人気です。世界中を回っている写真家の方々からも、毎年20m近くにもなる雪の壁は世界的に見てもない、とおっしゃっていただき、その景観は誇りに思います。

▲雪の大谷の、20m近くになる雪の壁は迫力満点。

雪の量がすごいですから南国の方には特に人気で、コロナ前は年間27万人のお客様にお越しいただきましたね。台湾からのお客様はリピーターも多く、毎年来る方もいらっしゃいます。

見角社長の個人的にはどの場所が一番おすすめですか?

見角:私個人的にはロープウェイですね。なぜかというとアルペンルートのロープウェイには支柱が一本もないんです。

え!景色もすごいでしょうが、スリルもありそうですね!

見角:スリルもありますよ!ロープウェイの中から外を360度眺めることができるんです。全国いろんなところにロープウェイはありますが、この景色が見れるのはアルペンルートだけですね。

▲中間に支柱が1本もないロープウェイは、360度の大パノラマを楽しむことができる。

「自然環境への配慮」という創業者の思いを反映して、景観の保全と雪崩の対策のために支柱をなくしました。今でも会社の理念は、自然保護と環境保全です。これからアルペンルートを訪れる人にはぜひそういった思いも知ってもらいたいですね。

立山トンネルについても、排気ガスを減らすためにトロリーバスの運行をしています。見た目はバスですがこれは電車です。かつては東京でも見ることができましたが、今では日本全国で唯一、アルペンルートでだけ運行しています。

▲立山連峰直下を走るトロリーバスは排気ガスを軽減するため、石油燃料ではなく電気を使用。

創業者の思いを守りたい

見角社長と、立山黒部貫光はどのようにして出会ったのでしょう?

見角:もともとは、地元である富山の交通事業に携わってみたいという思いから、富山地方鉄道という会社に入社しました。新入社員研修を経て立山に配属され、立山開発鉄道(立山黒部貫光の前身会社)に出向し、そこでは現場の運輸や総務関係の仕事をしていました。その後、立山黒部貫光と合併し今にいたります。私の祖父も父も富山の鉄道に携わっていましたから、その背中を見て育ってきたのは大きかったと思いますね。

その後なぜ、代表になられたんでしょう?

見角:ある意味運命だと思います。当時はまさか自分が代表になるとは思っていませんでした。前任の佐伯博社長が退任することとなり、現場での仕事も長かったのもあるし人望があると言っていただき、私が選ばれました。

私は会社の中で総務を担当しながらも、創業者の考え方に触れていくうちに、その歴史を後世に語り継いでいかなければと思うようになっていました。今では創業者を直接知っている者は社内でも数人ですが、これまで築いてきたものを守っていきたいなと思います。

現場での経験も長いということでしたが、どういったことがやりがいに感じられていましたか?

見角:事務職であれば継続していろいろな仕事がありますが、現場というのはその日が終わったら業務は完結し、また翌朝ゼロから始まります。お客様に安心してアルペンルートを楽しんでいただいて、一日を無事に終えることでホッとしていましたね。

施設の故障や事故があればとても大変なことになりますから。交通事業というのは、毎日安全に営業できるのが幸せなことです。それに、素晴らしい景色を常に見ることもできました。夕日や新雪、お花畑をいつも見ることができるのは特権だったなと思いますね。

▲室堂から坂を下った天狗平では、時期によって高山植物を楽しめる。

いつまでも、富山県のシンボルであるために

今後はどういった展開をしていくのでしょう。

見角:これまで一般に公開はされていなかった「黒部ルート」も2024年に開放されることが決まり、県が中心となって話が進んでいます。これまでの開発の歴史も含めて知ってもらう良い機会ですし、宇奈月温泉地域の活性化にも期待しています。新ルートが加わり魅力が倍増して、20年先も30年先も皆さんに親しまれる立山黒部アルペンルートでありたいですね。

また、立山黒部アルペンルートは、単なる物見遊山の観光地でなく、大事な生活路線でもあるんです。本州の中で隣の県と道路で結ばれていないのは本州では富山県と長野県だけなんですね。観光路線だけではなく、山小屋生活のために使っている人もいっぱいいるんです。そういった方々の生活を守る責任も果たしていく必要もあります。

50年もの間、人々の生活を支えて来たのですね。

見角:開業50周年ということで、開業時のアルペンルートを知っている皆さんももう高齢になってきています。今の若い人にとっては、雪の大谷は知っているけど、アルペンルートはどこにあるのかわからない、そういう状況です。

先日、地元の高校生に対して講演をする機会がありまして、アルペンルート行ったことある人!と聞いたら、150人のうち3人くらいしか手が挙がらなかったんです。

正直その時はショックを受けました…。やはり今の人達にとって、あまりにも近くにあると、いつでも行けると思ったらなかなか行かないんですかね。東京の人が東京タワーに登らないように。

昔は小学校5,6年生になったら、立山登山というのがあったんです。富山県内の小学校では当たり前でしたが、最近では危ないとか監視する人がいない、という声もあって少なくなっています。

しかし、富山県に生まれたからには、毎日立山連峰を見て育っているわけです。朝起きて東の空を見れば立山連峰があって、そこから日が昇り、一日が始まる。私たちのシンボルであり、誇りです。出張で全国いろんなところへ行きますが、市街地から3000m級の山が連なっている風景が見れるのはどこへ行ってもありません。県民にとっては身近な存在ですが、誇りに思ってほしいなと思います。

▲アルペンルートの中心地、室堂平では季節ごとの変化に富んだ景色を楽しめる。

取材を終えて

日本で唯一のトロリーバスや支柱のないロープウェイといった乗り物を乗り継いで、四季折々の絶景を見に行きたい!という気持ちになった今回の取材。

50年前県民の思いを背負い、開通した立山黒部アルペンルートは、これからも訪れる人々の安全と美しい自然を守りながら、ますます魅力に溢れた場所へと発展していきます。

▼『立山黒部貫光』HP

https://www.alpen-route.co.jp

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